キノの旅 -TheBeautifulWorld- 

作者/時雨沢恵一  イラスト/黒星紅白

電撃文庫

 





『キノの旅 -TheBeautifulWorld-』シリーズ・レビュー (

キノの旅 -TheBeautifulWorld- (1)』 () →bk1/→Amazon
キノの旅 -TheBeautifulWorld- (2)』 (中中) →bk1/→Amazon
キノの旅 -TheBeautifulWorld- (3)』 () →bk1/→Amazon
キノの旅 -TheBeautifulWorld- (4)』 () →bk1/→Amazon
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キノの旅 -TheBeautifulWorld- (6)』 (
) →bk1/→Amazon
キノの旅 -TheBeautifulWorld- (7)』 () →bk1/→Amazon






『キノの旅 -TheBeautifulWorld-』シリーズ・レビュー  作者/時雨沢恵一  (中上)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ

 

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

ご存知電撃文庫の数取り頭。その読者層は中高生はもちろん小学生女の子からも支持を受けているという、ライトノベルの域を超えかねない存在。初めて買ったライトノベルは?と聞かれて、この『キノ』と答える人も数多い。その人気、その勢いはいまだなお衰えません。

物語は、基本的にキノという旅人と、その相棒のエルメスという陽気なモトラドが、旅の途中で訪れた国に滞在しているときの話。キノは「一つの国に滞在するのは三日まで、期限が過ぎたらさっさと出国する」という独自のルールを決めて、いろいろな国を渡り歩く。キノたちが流れ着く国々はどれもユニークであったり、いろいろな法律を設けていたり、不思議な人々が住む国であったりとさまざま。

そしてこの小説が売れる理由のひとつが、ブラック・ユーモアでもって成り立っているということ。
『キノ』で書かれているショートストーリーは、その多くが「皮肉」で締めくくられているのが特徴。死にゆく運命にある人や、愚かな国民達を傍観者としてみる旅人、という視点で描かれています。

キノは腕利きの銃使いで、悪く言えば旅を続けるためには手段を選ばない非情な人間。時にはキノが、訪れた国や場所で命を狙われることもある。そんなときも殺人に関してはためらいを見せない。もちろん必要外な殺しはしないけれど。ただ生きる、生き延びるために必要な殺しを行う。そんな冷静な主人公。

一方相棒のエルメスは、言葉数少ないキノとは違い、よくしゃべる。ときによくわからないことも言ったり。

この二人のメインキャラに劣らないキャラを持っているのがシズと師匠。巻数を重ねるうちに彼ら(キノ以外のキャラ)のストーリーも登場します。彼らの話は、キノとエルメスの旅とは違う、また変わった旅の話。特に師匠の話は、どれもブラック・ユーモアぶりが全開で面白い。

旅を続けるという設定上、話はエンドレスに続くので、いくらでも話を付け足すことが出来るのも『キノ』の特徴でしょう。また主人公が一人だけではないので、過去の話や、ずっと先の話まで、時系列関係なしに話をつくることも出来ます。

そして、これは同氏が執筆している小説『アリソン』(電撃文庫)にも言えることですが、この小説が人気を誇る理由がここにもあります。それはあとがきです。
この人のあとがきは、反則技の連発。内容が面白い作家さんはよくいます。しかしこの人はあとがきの「形式」まで使ってあとがきを書いているのです。あとがきが存在するだろうスペースになら何をしてもいい、なんて考えを持っているのでしょう。一度なんかそのスペースさえも無視したことも。

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」とも言いますが、全体的にみてもアタリ弾は多いです。まぁ電撃文庫の数取り頭だけに、期待に外れるような作品ではないと思います。





キノの旅 -TheBeautifulWorld- (1)』  作者/時雨沢恵一   (中上)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅(電撃文庫 0461)

「キノはどうして旅を続けているの?」
「ボクはね、たまに自分がどうしようもない、愚かで矮小な奴ではないか?ものすごく汚い人間ではないか?なぜだかよく分からないけれど、そう感じるときがあるんだ。……でもそんな時は必ず、それ以外のもの、例えば世界とか、他の人間の生き方とかが、全て美しく、素敵なものの様に感じるんだ。とても、愛らしく思えるんだよ……。ボクは、それらをもっともっと知りたくて、そのために旅をしている様な気がする」
―――短編連作の形で綴られる人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。今までにない新感覚ノベルが登場!

「だからといって、旅を止めようとは思わない。それをしてるのは楽しいし、たとえば人を殺める必要があっても、それを続けたいと思えるしね。それに」
「それに?」
「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」
(P.12)

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

短編連作という変わった形式のライトノベルで、旅人が色々な国に立ち寄るのが基本スタイル。

この世界には多種多様な「国」が混在しています。各話には「人の痛みが分かる国」「多数決の国」「大人の国」など、その国の特徴を示すタイトルがつけられています。
個人的に好きなのは『コロシアム』と『大人の国』の二つです。

『コロシアム』
入国するやいなや、『市民権』獲得のための殺し合いに参加させられることになったキノ。コロシアムで催される、トーナメント式の闘技で勝ち進むキノは……みたいな話。
キノがしたいことは何なのか、心情描写が皆無なのでとても複雑です。

『大人の国』
とある国にやってきた旅人・キノと、そこに住んでいる女の子の話。
『キノの旅』全シリーズの中でもかなり異色です。ちなみにアニメ化されたときは最終話でした。

『キノの旅』は、決してハッピー・エンドでは終わりません。その国が持つ暗さを指し示したりするのがほとんどです。
無理やり「よかったね」で終わらせても、それが誰かの死の上で成り立っている、そんな話ばかり。

どの話も、それぞれのおもしろさを感じられると思います。
ただ『平和な国』を最後に持ってきたのは何故だろうとは思いましたが。





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (2)』   作者/時雨沢恵一  (中中)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 2(電撃文庫 0487)

キノとエルメスの旅は終わらない――。
キノとエルメスは、雪の森の中で男達と出会った。キノはウサギなどを仕留めて弱った男達に与える。しかし、元気になった男達は――!?(第一話「人を喰った話」)他全八話。キノの師匠の話(イラストノベル)特別収録。黒星紅白描くイラストも満載! 大人気新感覚ノベル早くも第2弾登場。

キノは帽子をかぶり、ゴーグルをはめた。エルメスのエンジンをかける。
「さて、行くかエルメス。今度は生きている人がいる国がいいな。安全だと、なおいい」
「よっしゃ」
モトラドは、森の中を走り去った。

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

内容は……前作に引き続きオムニバス形式です。
基本的にはどこそこの国に滞在したときの話ですが、道中出くわした事件のことなんかもあります。『人を喰った話』や『帰郷』なんかがそうですね。

お気に入りのストーリーは……『絵の話』−Happiness−ですかね。最初はいつものような調子の話なのですが、本の最後のところにちょっとしたボーナストラックが収録されていて……前作を読んでいた人は「お?」と思うでしょう。

あとがきは……なんというか……





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (3)』  作者/時雨沢恵一  (中下)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 3(電撃文庫 0515)

話題の新感覚ノベル第3弾、早くも登場!人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅のお話。キノとエルメスがまだ師匠の元にいたころ。ある日、キノたちが暮らすところに3人の山賊達がやって来た!? (「説得力―Persuader―」)をはじめ、「城壁のない国」「同じ顔の国」「機械人形の話」「差別を許さない国」「終わってしまった話」全6話を収録。口絵には、大人気黒星紅白描くイラストノベルを掲載。話題の新感覚ノベル第3弾、早くも登場!

「あの国だったら、また遊びに来てもいいな」
「おっ?キノがそう言うのは実に珍しい」
モトラドは、派手に砂漠を巻き上げて走る。
(P.104)

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

冒頭からシズストーリー。でもあんまりインパクトがないです。今作は『雲の中で』と『城壁のない国』以外はどれも印象に残らなかった感が。特に『機械人形の話』なんか読んだ記憶が早くも薄れています。

『城壁のない国』は、タイトルから平和な国かなー?と思っていたら、なんか雰囲気が違う。読み進めると突然事態が急展開。最後の最後はなんともいえません。ブラックだなー、って感じ。

あとがきは……うーん、作者が変な人にしか思えてこない。

上にも書いたけど、他に比べて多少物足りない気分。でもまぁ、短編ゆえにどの巻でどう転ぶかわからないのが『キノ』。





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (4)』 作者/時雨沢恵一  (中下)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 4(電撃文庫 0440)

歌声が聞こえる。 そこは、紅い世界だった。一面に紅い花が咲き乱れ、隙間なく大地を埋め尽くしている。
何もない、ただ蒼いだけの空が広がる。
……紅い草原に、再び歌声が聞こえた。
そしてそれが終わった時、最初に聞こえた声が訊ねる。
「これからどうするの?」
別の声は
「いつかと同じさ。どこかへ行こう」
すかさず答えた。
「そうだね。そうしよう」
最初の声が嬉しそうに同意した。
そして言う。
「そろそろホントに起こして欲しいなあ。キノ」

人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅のお話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第4弾!

そしてそれが終わった時、最初に聞こえた声が訊ねる。
「これからどうするの?」
別の声は、
「いつかと同じさ。どこかへ行こう」
すかさず答えた。
(口絵P.3)

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

うーん……なんかやっぱり押しが足らない気がするなぁ。『分かれている国』とか『認めている国』とかはそこそこ楽しめたのだけれど。やっぱりショートストーリー(10ページ以内)があまりおもしろくなかったからかな?『塔の国』や『ぶどう』とかは微妙だったし、『像のある国』に関しては何が言いたかったかもわからない。

どれが一番いいか、と言われたら『伝統』かなぁ?話自体はそっけないモノなんだけど、一番最後の挿絵がかわいかったから。以上。





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (5)』  作者/時雨沢恵一  (中中)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 5(電撃文庫 0627)

そう――。
この世界は美しく、そして輝いている。
ボクの心を落ち着かせ、なごませてくれる。辛いことを忘れさせてくれる。それが、僕の心がおかしくて、狂っていて、壊れていることの証明だとしても……。
それでもボクは、そう思えることを幸せに思う。思える今を大切に思う。
さあ――。
ボクはこれからもこれを見続けよう。僕以外の世界中の人が、これを美しくないと吐き捨てても。そう思うことが、これ以上ないほどの間違いだとしても。
ボクが、これを美しいと思うかぎり。
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、人気新感覚ノベル第5弾!!

美しいと思うから 美しいと思う
――Have I Ever Seen the Beautiful World?――
(P.9)

銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

口絵の小話に続く二話目からいきなり『人を殺すことが出来る国』。
重そう……と思いながら読み始めた第五巻。
後日、何巻に何があったとかいうのを思い出すのが出来ないこのシリーズ。
この五巻も10話もあるんだもんな……。

不思議なことが一つ。同じタイトルがあります。第四話と第五話。どちらもタイトルは『英雄達の国』。サブタイトルは微妙に違うけれど……。
先に出てくる『英雄達の国』は、ストーキングする7人の男たちをキノが『フルート』と名付けたライフルで殺戮すると言う話。
……どこが英雄ですの?そんな感じの話。
後に出てくる方は……秘密。
当然ながら二つの話はつながりを持っています。

そのほかの話について言えば……師匠ずっとこの調子なんですね。





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (6)』 作者/時雨沢恵一  (上下)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 6(電撃文庫 0695)

よくない道だねえ、と走ってきたモトラドが言った。後輪の脇には箱が、上には大きな鞄と丸めた寝袋とコート。旅荷物をたくさん積んだモトラドだった。でもやっぱりこれは近道だよと、モトラドの運転手が言った。黒いジャケットを着て、帽子とゴーグルをした十代中頃の若い人間だった。腰を太いベルトで締めたジャケットの前合わせは、初夏の風が入るように大きく開けていた。その下に、白いシャツを着ていた。人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。短編連作の形で綴られる、大人気新感覚ノベル第6弾。

「人間は強烈な印象がなかったり、必要の無いことはすぐ忘れる。いったことすら忘れている国もあるかもしれない。ただ、」
「ただ?」
エルメスが聞いて、
「人間は忘れることが出来るから素晴らしい、って考え方もある。」
キノが、浅井水たまりをそのまま通り過ぎながら言った。

(P.104)


銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

なかなか充実した第六巻。

「花火の国」や「忘れない国」などの「キノ」らしい皮肉さ。
口絵ページの「中立な話」と「長のいる国」での師匠ネタの面白さ。
「祝福のつもり」と「誓いb・a」の悲しさ残酷さ。
これら三つがよく溶け込んでいます。

「中立な話」は、正確には師匠だけではないのですが。
登場人物はキノ組、シズ組、師匠、男二人と男一人と死体一つ(人?)。
ショートショートな感じで、さくさくっと楽しめます。
短いだけに感想書きにくいのですが。

「誓いb・a」は、「キノ」ではおなじみの巻頭巻末でリンクしたショートストーリー。

先に「b」という、時系列的に”aの後”の話を読む。
そして他の物語を読み終えた後、改めて時系列的に”先”の話である「a」を読む、という形を一巻からとっています。
bだけじゃあいまいすぎて何のことかわかんないよ、と思ってaを読むと納得するのがパターン。

そしてこの「誓い」は、他の巻と照らし合わせてみれば、その話の皮肉さがよく分かります。
なんでこの時はこうなのに、って感じ。





『キノの旅 -TheBeautifulWorld- (7)』  作者/時雨沢恵一  (上下)
電撃文庫  イラスト/黒星紅白
writer:ソラカケ   bk1/→Amazon

オンライン書店bk1:キノの旅 7(電撃文庫 0796)

―モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)の反対側で、運転手が草の上に座っていた。両足を前に出して、後ろに手をついて、そして空を見上げていた。春の暖かい太陽に、蒼い空を背景にいくつかの雲が流れていく。運転手は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。黒いジャケットを着て、腰を太いベルトで締めていた。―人間キノとモトラドのエルメスは“動いている国”に出会い入国する。その“動いている国”が進む先には“道をふさいでいる国”があった(「迷惑な国」)。他全8話収録。短編連作の形で綴られる、新感覚ノベル第7弾。

「……いつも思うんですが、師匠には負けますよ」
「女は度胸です」
(P.129)


銃使いの旅人・キノと言葉を話すモトラド(空を飛ばない二輪車のこと)・エルメスの旅の物語。

前巻に匹敵する充実ぶり。
話の個数は少ないけど。

近作はコレにつきます。

師匠ネタ最強。

……えっ?違う?
だって「ある愛の国」といい「森の中のお茶会の話」といい、面白いんですもの。
反則だろーって感じ。

まぁ師匠は置いといて(置くのか?)。

前巻書いた「b・a」ものですが、本作はかなり長いです、「a」が。
タイトルは「何かをするために」。
キノがとある老女の家に嫁いで(違う)間もない頃の話です。
前巻の「b・a」のように、過去の話ですね。
キノが○○な理由や自分の○○を○○と○○○いる理由が分かります(分かりにくい……)。

まったりな話が多かった第七巻でした。
……ええ、保障はしませんが、